いちど知ってしまったら

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「大層悩んでおるな」
男の声が浴室に響いた。驚いて目を開けると、小さな老人が浴槽の縁に立っていた。
「誰だ、あんた」
「富路神じゃ」
「フロガミ?」
「左様。風呂に宿り、湯に入る者に幸せを授ける。汝、風呂に入らば三つの呪文を唱えよ。必ず運が開ける。『気持ちいい・最高・幸せだ』…ほれ」
怪しさ満載だが、最近悩み続きの僕は渋々唱えた。富路神は満足げに頷いた。

驚いたことに翌日から運勢は劇的に好転した。あれほど悩んだのが嘘のようだった。
しかし一ヶ月後、毎日呪文を唱えているのに今度は一転不運の連続となった。なぜだ。
すると、ある神社から一枚の葉書が届いた。

『富路神様ご利益のご継続には、当神社での月一回のご祈祷が必須となります。ご祈祷料はお志で結構です。ご参詣心よりお待ち申し上げます』

マジかよ…。
更に最後の一文で撃沈した。

『尚、お志次第ではお断りする場合も御座います。ご了承下さい』
その他
公開:19/11/26 16:21
更新:19/11/26 16:48
言霊 明るい言葉を口にしよう

秋田柴子

2019年11月、SSGの庭師となりました
現在は主にnoteと公募でSS~長編を書いています
留守ばかりですみません

【活動歴】
・東京新聞300文字小説 優秀賞
・『第二回日本おいしい小説大賞』最終候補(小学館)
・note×Panasonic「思い込みが変わったこと」コンテスト 企業賞
・SSマガジン『ベリショーズ』掲載
(Kindle無料配信中)

【近況】
 第31回やまなし文学賞 佳作→ 作品集として書籍化(Amazonにて販売中)
 小布施『本をつくるプロジェクト』優秀賞

【note】
 https://note.com/akishiba_note

【Twitter】
 https://twitter.com/CNecozo

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