積もる話でも

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空から薄い透明の紙が落ちてくる。それは地球サイズの大きさで。
空気のようなその紙は肉眼ではほとんどわからない。冬晴れの早朝、湿度や光の屈折によって、ごくまれにその紙が観測されることがある。
綿雪がてのひらで溶けてしまうように、その紙は人に触れると瞬時に消えてしまう。冷たさもないから、大半の人は透明の紙が降り積もっていることを意識せずに生きている。
雨が降れば溶けて流れるその紙は、川を流れてやがては海で、貝や砂、魚のうろこに結晶化する。
冬の東京は雨があまり降らなくて、その透明の紙はいつのまにか根雪のように道路を覆い、出歩くことを困難にした。未来を案じた人たちは躍起になって高層ビルを建て続け、積もる紙に対抗した。
2095年。東京は江戸時代のように平屋建ての町並みに変わり、富士山はアポロチョコレートのようにかわいい。地球は今日もバームクーヘンのように育ち続ける。
誰か私に珈琲を淹れて下さい。
公開:19/11/26 11:44
更新:20/08/10 09:50

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