昔の恋を語る基礎

義春は通信講座を始めた。
講座のタイトルは「昔の恋を語る基礎」。
亡くなった妻との想い出を、ただ墓場に持っていくだけでなく、言葉にして残したいと願ったのだ。

講座の教えに従って、義春は妻との想い出を整理し、わかりやすい筋道を見つけて、一つの物語にした。

義春の物語を聞いた人々は彼を笑った。
歳をとると人は昔の恋を語り出す。決まってそれは美化されたものだと。

美化ではない。真実だ。義春は憤慨した。
しかし、人々は彼の想いなど理解してくれない。
本当の美化とは、こういうものだ。
義春はフォトショップで自分の過去の写真を加工し、妻と出会いは沈没する豪華客船の中だった、ということに変更した。
世間を嘲笑うために、義春はこの物語をネット上に公開した。

数日後、テレビ局から取材の依頼がきた。
義春は作り話だと教えたが、彼らは信じなかった。
それは奇跡の恋物語として、お茶の間に放映された。