最初で最後の節目

2
5

 妻と娘は、私を許してくれるだろうか。
 感情に任せた「出ていけ」という言葉に、妻の「分かりました」という返答。仲介に入った娘さえ八つ当たりし、二人とも家を出ていった。その日、二人が死んだと聞かされた。水害だった。

 9年が経った今も二人の姿は見つかっていない。死亡届が二枚、未だに残っている。だから戸籍の上で二人は生きている。私が生かし続けている。お墓も立てず、ちゃんとした供養もせず、ただ生かし続けていた。私の自己満足のせいで。

 そんな私を、二人は許してくれるだろうか。微かに聞こえていた音は次第に遠ざかっていく。二枚の死亡届を握りしめながら、私は自身の鼓動が緩やかになり、そして止まるのを感じた。

 9年ぶりの邂逅に、妻と娘は笑顔で受け入れてくれた。だが、素直に喜べなかった。
 私はただ、妻と娘に生きていて欲しかっただけなのに。最初で最後の節目が、彼女たちの死を証明してしまった。
その他
公開:19/11/26 00:09

竹箒390円

綺麗な文章を書きたいと思ってます。
どうぞ、よしなに。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容