トリップ

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物書きのくせに何も書けない。締切前だというのに、原稿用紙は真っ白なままだ。天井を仰ぐも何も降りてこず。このままではまずい。
むしゃくしゃした私は原稿用紙を一口食べた。甘い味がする。やけクソで冷蔵庫からワンカップを取り出し、まるでスルメのように原稿用紙を肴に飲んだ。酒に合う。
すると頭の中に物語が次々に浮かんだ。これは夢かもしれない。私は酔いがまわりひたすら気持ちよかった。
次々に頭の中に流れる物語を原稿用紙に書きとめていった。

目が覚めた。しっかりベットに横たわっていた私。焦って原稿用紙を見るとぎっしりと文字で埋め尽くされていた。

『海の中で男の首を絞める私の手の力は緩まない。愛しい人。』

内容は殺人だった。本当に私が書いたのか?
手の甲に痛みを覚え、見ると爪痕のような引っ掻き傷から血が滲んでいた。


私は満足気に原稿用紙を一口食べた。

海の味がした。
あの男の唇と同じ味がした。
ミステリー・推理
公開:19/11/27 16:30
更新:19/11/27 16:39

夜野 るこ

  夜野 るこ と申します。
(よるの)

皆さんの心に残るようなお話を書くことが目標です。よろしくお願いします。

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