シンクの蛹

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 ああ また増えた
 ステンレスシンクの側面に薄黄緑色の蛹がびっしりついている
 これじゃあ洗い物またできないな
 私は再びここにもどってこられるようにとコインを一枚 背中越しにナゲイレルトプンチャリンピチャン

 ああ また増える
 コポコポとあぶくの音がするのが聞こえているのは耳の中 からだけかしら蛹 蛹の中身 フフフフ

 溶けてドロドロなんでしょ トケテみんな忘れて芋虫だったときのことなんか ミライしかないものね蛹

 私はサウナスーツを着てフードを被る 汗汗汗水滴タラタラタラと流れる音を聞く ゴーゴーという濁流が響くのは

 身体の中の音ね

 蛹の中の音ね

 溜まるばかりでちっともなくならないものが嫌い
 思い出? 蝶には芋虫時代の経験なんて無駄でしょ?

 暑いのは蛹のなか
 流れるのは蛹の溶けた身体と芋虫の記憶 翅? 記憶と経験が翅に変わるの?

 じゃ洗い物が私の翅だね
ファンタジー
公開:19/11/24 10:07

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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