マタギ料理店

18
12

霧に包まれたハイキングコースを歩いていた男は、間違って獣道を進んでしまい、かなり山奥まで入ったところで瀟洒な一軒の洋館に辿り着いた。
男は、洋館の玄関を見ると
『マタギ料理店』
古びた木製の看板が掲げられていた。
ひたすら歩き通しで空腹だった男は、玄関の前に置いてあったメニュー表の金文字に、お腹を鳴らした。
『当店の名物は、マタギが山で狩猟したばかりの野生の鳥獣を食材としたジビエ料理と、近くの漁港で水揚げされたばかりの「猫またぎ」と呼ばれるトロです。是非ご賞味ください』
マタギ料理店では、地元の山と海、両方の幸が楽しめるらしい。
男は、躊躇うことなく洋館の扉を開いた。
実は、宮沢賢治の童話『注文の多い料理店』に出てくる「西洋料理店 山猫軒」が実在し、「マタギ料理店」と名前を変えて今も営業していたのだ。
後日、一部のマスコミは男の失踪を取り上げたが、来店後の男の行方は依然として不明のままだ。
ホラー
公開:19/11/24 05:54
更新:19/11/24 09:26
ハイキング 獣道 洋館 マタギ ジビエ 猫またぎ トロ 宮沢賢治 注文の多い料理店 山猫軒

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容