平凡だが、愛

6
4

作家Aに、編集者から電話がかかってきた。
「先生。新作『物語を書き写すだけで美文字、ひらがな編』の原稿。直して頂きたい箇所、あるんですが」
「あ。縦書きに書いた『えんとつ』なら、直さへんで」
「先生。私、全文、横書きでお願いしますと言ったじゃないですかぁ」
「で・す・が。『えんとつ』を横書きで書いたら、ただの横たわる土管。サンタが入ってくるのは、縦に伸びとる煙突なんや」
「そこ、こだわります?」
「ま。縦書きにしか出せへん、世界観への愛やな」
「無茶です。無理、言わないで下さいよ」

校了の一ヵ月後、完成本が家に届いた。「えんとつ」だけ縦書き。編集者の愛だ。
その他
公開:19/11/24 00:00
更新:19/11/24 17:47
スクー 縦書き愛

久保田 人月

よろしくお願いします。
note「久保田正毅」でも、ショートショートをシェアしています。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容