涙くんはいらない

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「涙くんください」
 駄菓子屋のおばちゃんにもらったのは、空色の飴。小学生の私は少ない小遣いで一個買った。
 その日は祖父の通夜だった。私は周りが皆泣いてるのに涙を流せない自分が嫌になり、帰り道で飴を舐めた。
 すると、祖父との思い出が鮮明に甦り、寂しい気持ちで一杯になった。
「どうしたの?」
 玄関で号泣している私を母が心配した。でも失敗だった。葬儀が始まった時には舐め終わり、私は肝心な時に泣けなかった。



 
 読経を聞きながらそんな当時を思い返していた。私は娘のクラスメートの葬儀に同伴していた。
 突然の事故死。最愛の息子を失った両親の悲しみを想像すると涙が溢れた。
 ふと、隣に座る娘がゴソゴソとポケットから何か取り出したことに気づいた。
 空色の飴。涙くんだ。私は舐めようとする娘の手を掴んだ。
「大丈夫」
「だって」
 私は正面に向き直ると、少年の遺影を見て嗚咽し、咽び泣いた。
その他
公開:19/11/23 22:34
更新:19/11/24 05:49

イチフジ( 地球 )

マイペースに書いてきます。
感想いただけると嬉しいです。

100 サクラ

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