解放軍

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あの日、うまれてはじめての水族館で、私は鰯の群れを見つめていた。
日本に来て半年。蜂蜜の瓶詰め工場で働いていた私は、はじめての休日をもらった。休日は何をしても自由だと工場長は言った。
巨大な水槽には太陽の光が射して、たくさんの魚が夢のように泳いでいた。中でも鰯の群れはきらめくカーテンのように美しかった。
工場には社長というボスがいた。ボスはとても怖い人。私のパスポートを奪い、日本語学校に通うはずの時間も働くように命じられた。
「パスポートは必ず取り返す」
工場長は私に水族館で待つように言った。そして「群れの中には自分に似た鰯が必ずいるから」と笑った。
ひとり、またひとりと同僚の子たちがやってきて、皆暗くなっても、鰯の群れの中に自分を探しているようだった。
「逃げろ!」
突然館内に警報が響き渡り、私たちは駆け出した。
電気ドリルを抱き、巨大な水槽に突入していく工場長の姿を、私は生涯忘れない。
公開:19/11/25 13:30
更新:19/11/25 13:39

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