重なる旋律

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ベートヴェンの『第九』を聴くと、ようやく一年が終わると実感する。
心地良い旋律に微睡んでいると、夢を見た。
グランドピアノに座ったベートヴェンが手招きして私を呼んでいる。
微笑みながら手渡されたのは、手書きの楽譜だった。
ドイツ語のタイトルで何の曲かは分からない。
どうやら、今からこの曲を演奏してくれるらしい。

始まりはゆっくりと柔らかな旋律だった。
それは、やがて物憂げなノクターンに移り、今度はそれを打ち破るように激しいマーチが鍵盤を叩き鳴り響いた。
そしてまた、静かなノクターンが続く。
ここで、主旋律の中に音が一つ増えた。
新しい音を手に入れた旋律は、春の息吹きに溢れ、力強く奏でられた。
まるで、『第九』のように。
そして、主旋律の中にまた一つ音が増えた。
重なる旋律に涙がこぼれた。
ベートヴェンが私に微笑んだ。
次の春、私には子どもが生まれる。
この曲は、私の人生だ。
ファンタジー
公開:19/11/25 08:09

yori

読書が趣味なのですが、読むだけじゃなく自分でもお話を書いてみたくなり、筆をとりました_φ(・_・
ファンタジー系のお話が多くなると思います。
ゆくゆくはSF系にも挑戦したい。
主に土日に出没します⊂((・x・))⊃

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