白菜より愛を込めて

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某国の首脳部の情勢を内偵するのが私の任務。メールをハックし、強硬派と穏健派のせめぎ合いを逐一解析する。我が国が優位に立つには、穏健派の台頭が必須だが、なかなか思うに任せない。傍受するメールは白菜を芯まで剥いで、一枚ずつに書き込み、元通り巻いて、自宅野菜室に保管。白菜漬けを漬ける前には上への報告書にまとめる予定だ。
帰宅すると、妻がキッチンに立っていた。
―新メニューよ。
―CookPodかい。
野菜室を開けると、白菜がない。振り返ると、屈託なく妻がほほ笑んだ。
―買ったのよ、超高速野菜カッター。どんな野菜も世界一速く千切りにできるの。丸ごとのキャベツも白菜も10分後には3品のおかずに早変わり。
知りたくなかった、某国の特殊工作員が我が妻だったなんて。
蓄積してきた情報が失われたことより、愛する妻を失った痛みが私の心を散り散りに引き裂く。
諜報戦に敗れた私をキムチ鍋の湯気が柔らかく包んだ。
その他
公開:19/11/24 22:38
スク― 失われた白菜

こぶみかん( 関西 )

ssの庭に迷い込んだこぶみかん。数々のお話の面白さに魅せられ、通い始めた。
気が付いたら、庭の片隅に挿し穂されていた。
いつか実を結ぶまでじっくり育つといいね。

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