朝霧羽衣秘譚

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雪のように白い指が小瓶の蓋を摘まむ。小指を中へと潜らせ、ひと掬い。てらりと光を返すそれを彼女は僕の唇へそっと乗せた。
――甘い。目を丸くする僕が可笑しいのか、目の前の白い大輪の花が綻んだ。 
「きっと、また会いにきます」
耳に触れたのはため息に似た、そんな声。

あれから何巡も季節が移り、山は開かれて人が賑わう街になった。変わったのは景色だけじゃない。人も空を飛べるようになったんだと聞いたら驚くだろうか。

君に伝えたいことが沢山ある。
長い年月の中で僕が感じ取ったことはあまりにも多くて、多分言葉に出尽くせないだろうけど、その中に共感できるものがあれば幸いだ。
一日や二日じゃきっと足りない。

空にはしる雲の航跡を眺めて僕はラムネの蓋を開ける。
ちん、と瓶と指輪が当たって硬い音を立てた。
思い出す。そうだ、渡したい物もあったんだ。

「一番に驚いてくれるかな」
と嘯く僕。
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公開:19/11/22 13:48

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