家出するコタツ

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一人暮らしの未亡人。冬を迎え、コタツを出した。今晩も一人が怖いので、全ての部屋の電気を点けたまま寝た。

翌朝。「!」コタツがない。泥棒だ。背筋が凍る。その時「コタツです。僕がいて、まだ一人が怖いだなんてショックです。家出します」と悪戯メールが入った。熱海の旅館前で、知らない夫婦が、うちのコタツで暖をとる写真付だ。愉快犯の高笑いする姿が目に浮かぶ。数時間後には、伊東の旅館前で、別の夫婦がコタツで暖をとる写真が。次は下呂で…。
未亡人は閃いた。亡くした夫の旅行日記を見た。間違いない。コタツは、二人で昔に行った温泉を巡っている。そして、日記の事は未亡人と夫しか知らない。

翌日。朝起きるとコタツがあった。だらしなく足を広げ、寝そべっている。まるで懐かしい寝相の悪い誰かさんだ。未亡人はジョークを言いたくなった。
「あなた。やっぱりわが家が一番ですか?」
今晩は久しぶりに、電気を消して眠れそうだ。
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公開:19/11/20 23:09
更新:19/11/20 23:41
#スクー #家出するコタツ

久保田 人月

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