運動会

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 運動会の前だというのに、僕は自転車で転んで足を骨折した。
 そのせいで組体操で櫓の一番上に立つ役を、他の子に譲らなければならなくなった。
 悔しくてたまらない。
 話せば親が悲しむから言っていないが、あの時、自転車のブレーキが掛けられないよう、僕の手を誰かの手が押さえていた。
(あれは、兄さんだ)
 5才上の兄を、幼かった僕はよく覚えていない。
 でも、わかる。
(僕を運動会に出られなようにしたんだ。もう自分が出られないから)

 運動会当日。
 組体操の大櫓は堂々とそびえ立った。別の子を上に乗せて。
 僕はそれを下から見ながら、やっぱり悔しくて堪らなかった。

 櫓が崩れ、多くの悲鳴が校庭に響き渡るまでは。
 
 思い出した。
 五年前の運動会の頃だ。学校の先生達が家に来たことがある。
「組体操で、ちょっと頭を打ちまして」
 けれど、それ以来、兄は一度も目覚めていない。
 
 
 
ホラー
公開:19/11/22 12:44

堀真潮

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