ふしメ

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月明かりが差し込む、冷えた夜。
目を覚ますと、天井の目と目が合った。

目と言っても、木目が人の顔に見えるというだけのこと。点が三つあれば立派な顔だ。物心ついた時から、この目とはよく顔を合わせた。
小学校の入学式、友達はできるだろうかと期待と不安で眠れなかった。中学の部活の引退試合、絶対に勝つぞと息巻いて寝た。大学受験、何度も何度も暗唱しながら夜を過ごした。悪戦苦闘の就職活動、最終面接前に今度こそ上手くいくって暗示をかけた。そして迎えた明日……

いつの間にか、すっかり眠っていたらしい。ふと見上げた天井の節。いつもと同じでどこか違う景色。そう、小さな芽があったんだ。
「いってきます」
今日、私はこの家を巣立っていく。
その他
公開:19/11/21 20:36

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