節眼鏡

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きっかけは、帰宅中に駅前の通りを歩いていたときの出来事だった。
「そこのお方、これから大きな転機が訪れますぞ」
振り向くと、いかにも占い師らしき初老の男が、黒縁の虫眼鏡を通して私を凝視していた。
無視して通り過ぎようとすると
「無料でいいから見てしんぜよう」
「占いは信用していないので結構です」
「儂は、占い師などではない。予見者じゃ」
ふと立ち止まって
「予見者とは何ですか」
「儂は、この節眼鏡を通してそのひとの転機を見ることができるんじゃ。まあ、信じるかどうかは別として、其方は、これまで見てきた誰よりも鮮明な転機が節眼鏡に映っておる。これは珍しいことじゃ」
あまりにも予見者と名乗る男が興奮気味に話すので、見てもらうことにした。
「其方は、職場に区切りをつけるべきか迷っておるな。思い切って決断するがいい。起業すれば歴史的な発明をして空前の大ヒットを飛ばすぞ。まさに人生最大の節目を迎える」
その他
公開:19/11/21 20:17
転機 占い師 虫眼鏡 予見者 職場 発明 人生 節目

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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