バナナがこわいわけ

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 ぼくはバナナが怖い。それはビルとビルのすき間でサルを見たからだ。
 すき間はとても狭いけど、ぼくはそこを近道にしていた。入口には利人君の家のバナナ屋さんがあって、店先のザルにバナナを入れて売っている。黄色いのが120円。黒い点々が少しなら90円。点々がたくさんだと30円。そして真っ黒なバナナのザルには「サル」と書いてあった。
 ある日の夕方、ぼくが一人で近道しようとしたとき、すばしこい影が真っ黒なバナナを掴んで隙間へ走っていくのを見た。そっとついていくと、影は壁の窪みにしゃがみこんで、バナナにむしゃぶりついていた。「サルだ!」と思った。そのサルの顔は利人君だった。
 家に帰るとママが「遅かったね」と言った。家には黒くなりかけのバナナが吊るしてあって、ママはまだ青いくらいの固いのが好きで、パパは黒くてふにゃふにゃなのが味がある、と話していた。でも、ぼくはその日からバナナがこわくなったんだ。
ホラー
公開:19/11/20 12:01
更新:19/11/20 23:00
こわいわけ

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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