新月の男のこと

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「刺してあげる、まずは頭からね」
私はタクシーの運転手の脳天に背後から包丁を振り下ろした。

とぅるんっ

包丁は頭を滑って座席に刺さった。

「危ないですよ」

私は包丁を引き抜き、今度は運転手の肩を突き刺した。

とぅぅるるるんっ

包丁は滑って、私の足を突き刺しそうになった。なんだ、この運転手。普通の人間じゃない。
「人間ですよ。貴女よりはね」
突然私の口にこけしを無理やり突っ込んできた。そしてこけしの頭部から何やら甘い液体が溢れ、口の中をとぅるんとぅるんと満たし始めた。
「これ、仮死すソーダです」


東京から遠く離れた千葉県の、とある半島で、焦点の合わない目で空を見つめる女性が発見された。「とぅるん、とぅるん、とぅるんんん」と延々と呟いている。

「メーター2万越え。今日は終わり。さ、スナックのママに会いに行くか」
常に太陽の当たらないその男は、今日も夜の帳に消えていく。
ホラー
公開:19/11/18 21:40

たらはかに( 日本 )

たらはかに

https://twitter.com/tarahakani
猫ショートショート入選 「猫いちご ・練乳味」
渋谷ショートショート入選 「スク・ラブラブ・ランブル交差点(哀)」とか。

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