ノンフィクション

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俺はノンフィクション作家としての才能に恵まれていた。それは現実を書く力ではなく、書いたことが現実になる力だ。これまでの作品はどれもリアルだと大評判。当然だが。
次回作のテーマは「現在の渋谷」。今まで歴史を中心に書いてきた俺にとって新たな挑戦だ。俺は自分が思う渋谷、つまり若者の青臭いパワーが溢れ、混沌と入り乱れる街を文章に起こしていった。
ふとテレビに目をやると、スクランブル交差点が映っている。これこそ渋谷…ん?
『渋谷ではなぜか信号が全て青になるトラブルが起きています。交通整理が追いつかず、渋谷はまさにスクランブル、大混乱です』
な、なんということだ。自分の文章力が急に恐ろしくなり、原稿を破り捨て、出版社に依頼を断る電話をかけた。
渋谷は何事もなかったかのように以前の青臭さと混沌を取り戻した。しかし俺は部屋でひとり、自分が改竄してしまったかもしれない歴史の山を見上げて途方に暮れていた。
SF
公開:19/11/17 20:49

みきやん

普段は病院で働くひと。
のんびり妄想したい。

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