渋谷の端っこ

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「渋谷の端っこには、なにがあると思う?」
初デートの渋谷。隠れ家的なカフェでプリンアラモードを掬い取りながら、彼が言う。
「わかんない」
適当に返すと、「もうちょっと考えてよ」と、クリームをつけた口が不満そうに突き出された。
「ていうかさ、渋谷の端っこってどこになるのかな。区なわけ? それとも駅の範囲?」
考えてみれば、渋谷の端っこなんて表現は随分アバウトな言い方だ。なにがあるかなんてことより、よっぽどその方が気になる。けれど、彼は私の興味にはまるで関心がないらしかった。
「これだよ。これが渋谷の端」
「これって、プリン?」
「そう」
彼のスプーンがプリンをまっぷたつに掬って、その隙間を、カラメルソースが川のように流れる。
「甘い山の間の、」
渋い谷。
彼がにこりと笑うのに、すうっと背筋が寒くなる。
乾いた口の中では、食べてもいないカラメルソースの苦味が、舌の奥へと滑り落ちていった。
ホラー
公開:19/11/17 23:59
更新:19/11/18 00:02

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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