三十万分の一

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シブヤ、シブヤデス
そういえば、山手線の車掌はどこで交代するのだろう。ふと疑問を抱きながら電車を降りる。先頭車両に一瞥くれようかとも思ったが、吐き出された人の波に何もできず改札を出た。
今日も今日とて「渋谷駅ダンジョン」をクリアし東横線まで辿り着かねば。短く息をついて右を向くと、大窓から街のネオンが飛び込んだ。
金曜、夜、八時半――偶には、悪くないかも。

この街は来る者を拒まない。一人だろうと、女だろうと、スーツだろうと。さも当然とばかりに、全てをその混沌の中に包み込む。

目的もなく地上に出ると、自然と駅前交差点で足が止まる。一日で行き交う人数は三十万ときく。三十万人が、三十万通りの渋谷を歩くのだ。

そう、渋谷に主人公はいない。
だが今、私は渋谷の主人公だ。
口笛が吹けたならな、と思った。この喧騒なら、誰にも聞こえやしないだろうから。

四方を照らす青信号が、私に「すすめ」と告げる。
その他
公開:19/11/17 23:55

本夛奈月( 東京 )

東京の大学生です。
よろしくお願いします。

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