交差点の向こう側。

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 信号機の青がチカチカし、やがてそれは赤に変わった。
 僕は、覚束ない足取りで、スクランブル交差点のなかへ。
 


 「ダメじゃない。赤なのに渡ったら」
 少し遠くのほうから、こんな声が聞こえた。
 目を開けると、交差点の向こう側で、女性が叫んでいた。
 僕と彼女以外、時が止まっているようだった。

 彼女は震える声で言った。
 「ねぇ、覚えてる?あなたが言ったのよ。“赤は渡っちゃダメだよ”って。何もかも嫌になって、交差点に飛び込もうとしていた私に。
 あの日、私を助けてくれてありがとう。私の人生は、あなたたちより短いけれど、あなたと過ごせたから、とっても幸せだった。優しさをありがとう。最期まで…側にいてくれて、ありがとう…」



 気がついたとき、信号機は青に変わっていた。
 チリン。どこかで懐かしい鈴の音。そして、揺れる視界の隅には黒猫の影…。
その他
公開:19/11/17 23:50
渋谷ショートショートコンテスト

すみれ( どこか。 )

書くこと、読むことが大好きな社会人3年生。
青空に浮かぶ白い雲のように、のんびり紡いでいます。
・プチコン「新生活」 優秀賞『また、ふたりで』
・ショートショートコンテスト「節目」 入賞『涯灯』



note https://note.com/sumire_ssg

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