愛しき動態

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「ねぇ、このまま時が止まればいいのにね」なんて歯の浮くようなセリフ。ムードに流されて言うんじゃなかった。
 女は展望台から本当に時が止まってしまった美しい夜の街を見下ろしていた。
 はるか眼下には無数の光源―白い街灯や橙の窓。赤いテールランプの連なり。知らないアイドルの映る巨大サイネージ。永遠の21:33。流れないタイムライン。気づいて欲しいと必死だった新しいイヤリング。
 それらはキラキラとひしめき合ったまま静止して、小さく黙りこくって、海底に沈んだ銀河のようでした。
 ふと、目も口も半開きで止まった不運な彼の横顔を見た彼女は、少し笑ってそのほっぺをつねってみる。彼は何を言おうとしてたのだろう。昨日の話より明日の話だったらいいな。
 それから3年が過ぎたある日、とっくに美しい標本に飽きた彼女がスーパーで缶詰を調達していると遠くで足音が聞こえた。その足音の人物と彼女はこれから恋に落ちる。
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公開:19/11/17 23:22

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