ハグミー、シブヤ

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 震える指でリップを塗りなおす。まだ唇は乾いている。
 秋風に揺れるスカートはいつもより短い。
 もう一時間も君の姿を探している。待ち続けている。冷め切らぬ欲望を、ひとりで飼い殺している。伸びた前髪を撫で付けた。
 「フリーハグ!」、そう乱雑に書かれたダンボールを片手に金髪のお兄さんが笑う。スクランブル交差点から歩いてきた美女とハグ。そんな彼のしたたかさが欲しい。
 なんでも許されていいの、だって今日の私はデートだから。この街で意味ありげに微笑んでも、きっと許されるの。
 ふいに、雑踏の鮮やかさに全てを投げ出したくなる。
 
「ごめん、待たせたね」
 聞き覚えのある声が聴こえたから、その流れを追うみたいにして振り向いた。
 秋の終わり、君はハチ公の隣で微笑んでいた。
 悪戯っぽく笑ったら、私をすっぽり抱きしめる。

 君の目には、渋谷の街しか映っていない。
 
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公開:19/11/17 23:15

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