傘の花

　七月初旬、渋谷に梅雨の雨が降る。
　宮益坂を行き交う人々はみな傘をひろげ、赤、黒、藍、緑、白の傘の花が咲く。歩道を見下ろすと色とりどりの傘が足早に過ぎ去っていく。
　道玄坂にも傘の花が咲く。歩道が傘の花で彩られている。
　スペイン坂の狭い路地にも傘の花が咲く。傘どうしがぶつかりそうになりながら、ゆっくりと歩みを進めていく。
　渋谷駅前は美事な傘の大花が咲く。スクランブル交差点前はどの花にも似ていないカラフルな花模様となっている。まるで色を競うかのように鮮やかな色彩が目に飛び込んでくる。信号が青に変わると、花びら一枚一枚が四散していく。
　渋谷の路地のどこを見ても色鮮やかな傘の花が咲いている。普段は無味乾燥なアスファルトの歩道が、色彩で賑わっている。
　夕方、雨が止む。歩道の水たまりに夕日が差し込み、きらきらと輝く。蒸発する水たまりから雨の匂いが立ち籠む。夏はもうすぐそこだ。