春が近い朝に

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「今日は全国的に雲が広がり、冷え込む予想です」
 お天気お姉さんは白いコートを着て、飴色のマフラーを巻いている。
 渋谷の交差点の風景が映し出されるテレビ画面を見ながら、私はトーストにマーガリンを薄く塗っている。

「東京にはこんな、蕎麦屋の看板なんてないんやろ。ふんどし姿でちょんまげで、へろへろな線で」
「それは、分からん」
「私がテレビでみよるんは、ぴかぴかしとって、でかくて、映像が流れてた。アイドルの」

 通学バスの中で、その色褪せた看板を指さした。
 吉野は、東京の大学へ行く。春になったら、行く。
 この馬鹿でかい交差点を吉野もきっと歩く。テレビにも、うつるかもしれん。

 トーストは寝起きの口の中でぼそぼそしてばかりやったし、私のマフラーは赤いギンガムで、お姉さんみたいなオシャレなロゴはついてないんやった。
 私はマーガリンをもう一度、トーストにどっさり塗りつけた。
青春
公開:19/11/17 19:44
更新:19/11/17 19:57
青春 恋愛 十代

麦野 ハコ

ごはんを食べること、お布団で眠ること。ときどき、ふしだらなこと。否が応でも続いていく生活の断片をえがいています。

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