怪電話

子供の頃、怪電話が掛かってきたことがある。
電話が鳴って受話器を取ると、誰かの呼吸音が聞こえる。
もしもし、どなたですか？　と質問しても、相手は何も答えない。
しばらくすると、プツリと切れる。
イタズラ電話に違いないとは思うのだが、その電話は必ず定期的に掛かってくるところが不気味だった。
執拗なのである。
私は、誰が、どんな目的で、電話をしてきているのかずっと疑問だった。

先日、ついにその理由が明らかになった。
電話主は、父だったのだ。
母はずっと交通事故で死んだと言っていたが、実は母と離婚して海外で生活していたらしい。
その父が亡くなり、弁護士から相続絡みの連絡が来たのがきっかけで、父の存在が明らかになった。
弁護士によると父はよく私の家に電話を掛けていたらしい。
ただ、喉頭癌のために声帯を切除し、声が出せなかったのだ。
父の呼吸音だけが私の想い出である。