道玄坂の魔女

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瞳の大きな可愛い女の子だった。
道玄坂の暗闇からひょいと飛びだしてきたときは、巨大なネズミの影かと思った。魔女の衣装を着た、幼稚園くらいか?母親を探してみたが見つからない。交番は、騒ぎのせいか、誰もいなかった。
「お爺ちゃん。お腹空いた」と言うのでファミレスに連れていった。夢中になって前歯で削るように食べていた。変わった子だと思った。どこで覚えたのか「お爺ちゃんは、お婆ちゃんと添い遂げてね」なんて言う。
キョロキョロとあちこちを見渡すかと思えば、優しく私の目を見つめてきたりして、何故か心が落ち着いた。
 家には熟年離婚だとわめく妻と、親を見下す娘。50年以上も家族のために働いた私に感謝の言葉もない。そうだ、旅に出ることしよう。もう帰らない。少女を交番に預けて、駅へと走った。駅で切符を買おうと立ち止まった私の目の前にネズミがいた。そのネズミはさっき私が、溝に捨てたはずの指輪をくわえていた。
その他
公開:19/11/17 10:56
更新:19/11/17 15:53

吉村うにうに( 埼玉県 )

はじめまして。田丸先生の講座をきっかけに小説を書き始めました。最近は、やや長めの小説を書くことが多かったのですが、『渋谷ショートショート大賞』をきっかけにこちらに登録させていただきました。
飼い猫はノルウェージャンフォレストキャットです。
宜しくお願い致します

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