待ち人

0
3

「もう無駄なんだよ。いくら待っても」
「無駄じゃない」
「いいか。父さんは、もういないんだ」
「嘘だ。絶対に信じない」
「あのな。お前も見ただろう、今日の通夜を」
「っ」
「死んだんだ。父さんは」
「……」
「出先で突然倒れてのことだったからな。戸惑うのは分かる。だがな、いい加減現実を受け入れないと」
「ジョン……いや、兄さん」
「うん?」
「誰が何と言おうと、僕はここで父さんを待つ」
「だから、今日いくら待ってもだな」
「今日が駄目なら明日も。明日が駄目なら明後日も。明後日が駄目なら明々後日も。毎日待つよ、いつもみたいに父さんが帰ってくるまで」
「……はあ。分かったよ、ハチ。もう好きにしろ」
 まるで銅像にでもなったかのように、弟は頑なに渋谷駅の前を動こうとしない。ついに私は説得するのを諦めた。
 きっと本当に彼は、父であるかつての主人を待ち続けるのだろう。
 その命尽きるまで。
その他
公開:19/11/17 07:57
更新:19/11/17 23:43

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容