お別れ

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「もうお別れみたい」
「そうか、今までありがとう」
「昔お客さん取っちゃってごめんね」
「お互い様さ。君は良いライバルだったよ」
「これから変わっていく渋谷を、一緒に見たかったな」
「僕が君の分も見ておくよ」
「ねぇ、最後だから本当のこと言っていい?」
「なんだい?」
「あなたのことが好きだったわ」
「嬉しいな、僕も君が好きだよ。ずっと隣にいたかった」
「……やだ、雨かしら。私もう屋根ないのに」
「……雨なんて降ってないさ」
「じゃあ、先に行ってるわね」
「僕にその時が来るまで、待っていてくれる?」
「さぁどうかしら。すぐリサイクルされちゃうかもよ」
「君が日本のどこにいても、必ず見つけ出すさ」
「ありがとう。さようなら」
「さようなら」

翌朝、彼女の姿はなく彼女が建っていた地面には、ぽっかりと大きな穴が空いていた。
僕の表面についた朝露を、ビルの清掃員が何度も拭いては首をかしげていた。
SF
公開:19/11/17 07:32
更新:19/11/17 08:22

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