22才の別れ

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 彼女と2人だけの狭いエレベーターには、泡盛の匂いが充満していた。
「ねえ、渡辺君。妹と渋谷でデートしてやってくんない?女優なんだけど」
 大学の演劇部の同輩だった姉に、そんなお願いをされたのは、1978年11月末。
 師走半ばの土曜の5時。ハチ公前で待ち合わせ。トワイライトの中、目の前に5分遅れで現れた彼女は、劇団の研究生。
 俺は大学4年の22才。耳付きの501に、1972年製の実物MA-1のEタイプ。彼女は東京暮らし2年目の19才。リーバイスのコーデュロイのブッシュパンツに、キャンプ7のダウンジャケットを羽織っていた。
 駅近くの雑居ビル5階の居酒屋に入店。
「これ、沖縄のお土産なんですけどぉ」
楽しい時間は夢の様に過ぎ、帰りのエレベーター。俺は手を滑らせて泡盛を落としてしまった。無残にも、瓶は割れ・・・。
 エレベーターを出ると、石川鷹彦の弾く、あの曲のイントロが聴こえてきた。
青春
公開:19/11/17 07:08
更新:19/12/07 22:34
渋谷 109もモヤイ像も TSUTAYAもなかった そんな渋谷の昔の物語 記念すべき50作目

渡辺 隆一( 千葉県野田市 )

千葉県野田市在住の、渡辺隆一です。
小学4年生の頃から、文章を書くのが
好きで、今も、趣味で書いています。
ショートショートが、好きです。

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