永年勤続表彰

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今日で最後だ、とタイムカードを挿したとき、管理人は強い違和感を覚えた。すでに取り壊しが決まっているビルとは言え、有終にケチをつけられちゃ堪らない。確認がてら屋上まで上がると、視界に広がったのは見慣れたはずの渋谷じゃなかった。

懐かしい。これは勤め始めた頃の…。

よく見ると、まるでクレイアニメのように建物が伸びたり縮んだり。街はぐんぐん時代を早送りしているようで、あっという間にビルの周辺は更地になった。

再開発か…。

そう呟くと、管理人はビルと一緒にグニャリと溶け崩れた。代わりに立ち上がった巨大建造物は、一帯の声を吸い上げつつも、吐き出す息を歌にして聴かせた。耳心地の良さに大地は踊り、鳥はたくさんの水と緑を連れてきた。

知らない景色が変化し続ける。でも渋谷はいつまでも渋谷だった。ほら、耳をすませば堆積した過去の静けさが聞こえる。

ピー。

タイムカードがようやく機械から出てきた。
ファンタジー
公開:19/11/16 23:38

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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