渋谷怪談

3
7

二百年ぶりに現れた幽霊は、江戸の変貌に腰を抜かしそうになった。天まで届きそうな建物、高速で動く鉄の塊、溢れるばかりの人の波。
しかし、自分が驚いている場合ではない。幽霊であるからには、誰かを怖がらせなければならない。それが成仏できない霊魂の定めなのだ。しかも誰でもよいわけでなく、恨みある人物の縁者、もしくは恨みのある場所にいる人に限られている。
もはや縁者を探すのは不可能だ。幽霊はかすかに形が残る街道を頼りに、恨みのこもった屋敷あとにたどり着く。
そこは巨大な商業施設になっていたが、贅沢をいってはいられない。さっそく幽霊は茶色い髪型の若者に声をかけた。この顔を見れば、だれもが震え上がる。
「ほんまにわしの面。いつの間にわしの顔が……」
若者は冷静に答えた。
「あなた、四谷怪談のお菊さんだよね。ここは四谷じゃなくて渋谷だから」
お菊さんはあまりの恥ずかしさに、またたくまに成仏したという。
ホラー
公開:19/11/16 06:17

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容