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少年の日を思い出させるような午後だった。近年では珍しい、心地よい夏の暑さだ。なのに、こうして怒りが沸いてくるのはなぜだろう。
「それはね、その時の悔しさが甦って、怒りのスイッチが入る温度だからだよ」
妻の言っている意味がわからなかった。
「みんなそうみたい。ON怒(おんど)っていう現象だって天気予報で言ってた」
そうか…あの年の夏休み、親達に内緒で初恋の娘と、どこまでも遠くへ出掛けた事があったな…でもそれで満足して大切な事を言えなかった。あの時の気持ちだ。
「急変するとも言ってたね」
網戸越しに見上げた空には雨雲が広がり始めていた。
「あ、光った。落ちるかな…」
そう、あの日の夕方も両親の雷が落ちたんだ。それで一気に気持ちも冷めたんだっけ…。
「子供だったんだな、空を見てたら怒りも冷めてきた…みんなって言ってたけど君も…」
妻の返事が轟音でかき消されたあと、ポツポツと雨の音が聞こえてきた。
ファンタジー
公開:19/11/16 01:54
更新:19/11/16 22:46

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