あなたの時間へようこそ

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「え〜、"ぼっち"なんて寂しいよ。それに何だかミジメだもん」
昨日同僚から言われた言葉を思い出して、私はため息をついた。とあるバーのカウンター。客は私しかいない。
「…なんて言われちゃったの。一人には一人の楽しさがあると思うんだけど」
バーテンダーはナイフをあてた手元のライムから目を離さずに言った。
「楽しみ方は人それぞれです。いらした方にご満足頂けるようおもてなしするのが店の務めです。…ただね、一人はいいもんです。孤独は自由の裏返しですから。ご覧のとおり、私もずっと一人でやっております」
柔らかなライトにきらりと光るシェイカーをぼんやりと見つめる。
「…お待たせしました、ジントニックです」
上品にカットされた氷がたてる澄んだ音。微かな泡立ちを舌先でとらえた時の至福。仄かにただようライムの香り。
一人じゃないと、きっと気づかない。
静かで濃密な時間が流れていく。
夜はまだ、始まったばかり。
その他
公開:19/11/15 17:24

秋田柴子

2019年11月、SSGの庭師となりました
現在は主にnoteと公募でSS~長編を書いています
留守ばかりですみません

【活動歴】
・東京新聞300文字小説 優秀賞
・『第二回日本おいしい小説大賞』最終候補(小学館)
・note×Panasonic「思い込みが変わったこと」コンテスト 企業賞
・SSマガジン『ベリショーズ』掲載
(Kindle無料配信中)

【近況】
 第31回やまなし文学賞 佳作→ 作品集として書籍化(Amazonにて販売中)
 小布施『本をつくるプロジェクト』優秀賞

【note】
 https://note.com/akishiba_note

【Twitter】
 https://twitter.com/CNecozo

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