渋待（しぶまち）

「いい？朝５時ね。遅刻しないでよ！」
「へいへい。会場に５時ね」
「違う！会場前の待機所前の予備待機所前の（中略）…前の特別臨時待機所前よ！」
意味不明。そこまで下れば、本来の目的地は遥か彼方だ。ネットより、直接行く方が当たると彼女は主張するが、明らかにナンセンスだと俺は思う。待ち合わせの為の待ち合わせで、貴重な休みを潰すなんて。
渋谷駅での待ち合わせ、略して『渋待』は、デートの最高ステイタス。世界各国から申請が殺到し、抽選倍率は２億を突破。夢半ばで斃れ、あるいは破局したカップルは星の数。もはや渋谷駅は駅にあらず。待ち合わせ当選者以外、何人も立ち入れない一種の聖地だ。
元々は駅周辺の渋滞緩和策で、人の溜まる待ち合わせを抽選にしたのだが、そのレア度がウケてこの騒ぎ。仮に当選しても、対面時間は秒単位で区切られ、会ったら即解散だ。
３００ｍ先の新渋谷駅でなぜいけないのか。俺には全く理解出来ない。