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閉め切った窓の外、どこからかピアノの旋律が聞こえる。
スランプに陥って「もうピアノなんてやめるから」と彼に八つ当たりしたら「夢を追えないお前とはもう会いたくない」と逆ギレされた。
聞こえてくるピアノ。あれは彼とよく連弾した曲だ。
リビングに降りると、久しぶりにピアノに触れた。鍵盤に指を落とすと、ぽろん、と澄んだ音がした。
私は椅子に座ると鍵盤に指を滑らせた。溢れるようにメロディーが生み出される。夢中で弾いた。この連弾曲は彼と弾くのが誰とよりも楽しかった。
ああ、やっぱり好きだ。好きなんだ。ピアノも、彼も。
LINEの通知が鳴ったのでスマホを開いた。彼からだった。
『お前との連弾が一番楽しいな』
耳を使うのを怠けていた。
そう、あの音は彼しか出せない。確かに彼のものだったじゃない。
幼なじみでもある彼は、隣の家に住んでいる。
『今からそっちに行ってもいい?』
私は返事を待たずに家を出た。
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公開:19/11/16 15:26

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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