箱庭

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積み木の入ったかごを抱えて、男の子は庭にある砂場に向かった。
水道でじょうろいっぱいに水を汲み、砂場にかける。
雨のように降り注いだ水が集まり、川のように流れて低い場所に水たまりができた。
その水辺に、動物のミニチュアを並べる。
砂地はスコップでならして積み木を並べた。
ビルが建ち並ぶ街のように。

「ただいま」会社から帰ったお父さんは、男の子が熱心に遊ぶ砂場を覗き込む。
日が傾き、積み木はビルのように影を伸ばした。
その合間をぞろぞろと、人のような小さな物体がうごめいていた。
積み木の隙間から出入りし、渋谷のスクランブル交差点を渡るように行き交っている。
見間違いか?
お父さんは数回瞬きして、目を凝らした。

そのとき「ごはんよ」とお母さんの声が聞こえた。
「はぁい」男の子はいつもの通りに砂場に置いたミニチュア動物を拾い集め、積み木をかごにしまった。

ただの砂場に、もう人影はなかった。
ファンタジー
公開:19/11/16 13:53
更新:19/11/16 14:38

ケイ( 長野 )

ショートストーリー、短編小説を書いています。
noteでも作品紹介しています。​​
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テーマは「本」と「旅」です。

2019年3月、ショートショートコンテスト「家族」に応募した『身寄り』がベルモニー賞を受賞しました。(旧名義)
2019年12月、渋谷TSUTAYAショートショートコンテストに応募した『スミレ』が優秀賞を受賞しました。
2020年3月、ショートショートコンテスト「節目」に応募した『誕生会』がベルモニー賞を受賞しました。

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