青になれ

私たちがデートをするのはいつも渋谷。
帰り道のスクランブル交差点でだけ、私たちは手を繋ぐ。
ここでは青信号が点灯する一分間に千人以上の人たちがすれ違う。
だから、その時だけは私たちに向けられる視線も千分の一になる。
慌ただしい人の群れの中、私たちは寄り添ってゆっくり歩く。
この僅かな間、私たちは自由に恋をしている。
「好きだよ」と言った声は喧騒の中でもはっきりと聞こえた。
点滅する青信号に急かされて、お互いにそっと手を離す。
三、二、一で赤に戻る。
私たちは振り返り、黙って赤信号を見つめる。

青になれ。
クラスメイトの噂も、先生の忠告も青になれ。
親の訝しがる目も、世間の拒絶する言葉も全て青になれ。
そうしたら私たちはどこでも手を繋いで歩こう。