ママのトースト

我が家では、大切な日の朝食はトーストと決まっている
バターを塗っただけの、シンプルなもの

運動会も、遠足も、卒業式も
大切な日には必ず、パパと二人でトーストを食べた

結婚式当日の今日も、容器の中でバターを小さく切りながら、思い出す

冷たいバターが固くて、どうしてもうまく塗れないでいたパパと私に、ママが教えてくれたこと

「こうやって切って柔らかくしてあげれば、きれいにできるのよ」


トーストを食べるたびに、私たちはママを思い出す


「準備、できたぞ」
緊張した面持ちのパパが、洗面所から顔を出す

「うん。こっちも」
きつね色のパンに、柔らかくなったバターをそっと載せ、パパと二人で手を合わせる

「お母さんには、内緒にしてね」
「うん。ママの、思い出だもんな」

明日からは、我が家は三人になる

とろりと黄金色の染みたトーストをかじりながら
私は小さく「おめでとう」と呟いた