いろどり

2
6

宇宙船から見た渋谷は雪山の連なりだった。僕は道玄坂に着陸すると、先祖が暮らした雪のまちを歩いた。
かつて熱帯化した地球。その後の氷河期で多くの生物が死に絶えた。再び氷が溶けはじめたことを知った僕は、自分のルーツに触れたくてこのまちにやってきた。
道玄坂の麓には遺跡となった建造物がいくつもあって、そばを色のない川が流れている。母に似たスナメリが魚を追って行き過ぎると、季節は色のないまま春を迎えた。
地球の時間は銀河の何十倍も早く流れて、僕は川のほとりで途方にくれる。静寂の渋谷。対岸の宮益坂に、いつのまにかうつむいた少女が一人いて、僕は心惹かれていった。
声が届かず、ただ見つめるだけの恋は、3年後、中洲に育つマンゴーの樹の下で実った。想いあふれて彼女を抱きしめると、踏んでしまったマンゴーの実から色がこぼれて、まちの色彩がみるみると蘇っていく。
彼女は翼を広げ、飛んだ。
はじめて聞いた彼女の声。
公開:19/11/14 18:19

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容