スクランブル交差点

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「東京の人って、他人を避けて歩くのが上手いよね」
入社式の帰り、渋谷TSUTAYAの窓からスクランブル交差点を見下ろした同期の江梨子はそう呟いた。
同じ地方大学出身という親近感はすぐ恋愛感情に変化したが、僕は江梨子に拒絶されるのが怖くてただの同僚を演じていた。
三年後、同じ部署の高島主任が結婚することになった。
相手は学生時代から付き合っていた彼女だと、飲み会で本人が気恥ずかしそうに語っていた。
それから間もなくして江梨子の退職が決まった。
女子社員が噂していたのだが、江梨子は高島主任に二股をかけられていて結果的に捨てられてしまったようだ。
今さら告白したって無意味だが、会社から去って行く江梨子を追い掛けずにはいられなかった。
「江梨子!」
JR渋谷駅の改札を通り抜ける寸前、江梨子が振り返った。
「……なんだ、主任かと思ったのに」
――あれから僕も他人を避けて歩くのが上手になった。
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公開:19/11/15 15:22
更新:19/11/15 19:47

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