はむおっと

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私の朝はいつもパンとコーヒー。同居している義母は、毎朝もみ海苔たっぷりのごはんに醤油をかけて食べている。
臨済宗妙心寺派の寺に嫁いで30年になる。朝はお堂の掃除に鉢植えの水やり、飼っている亀の散歩をしながら、裏の墓地を掃除してまわる。それから食事の支度をして、ラジオドラマを聴きながら食べるのが私たちの日課。
住職だった夫がうさぎになってしまったことをのぞけば、もう何年も変わらない朝。
「覚えてる?あの日のこと」
今年で90になる義母が言った。
「忘れるはずありません」
「あの子、目を真っ赤にして」
「寝不足だとばかり」
「草ばかりはんで、法要なんてそっちのけで」
「思えば昔から変わった耳をしてました」
「こんなことになるなんて…」
夕暮れの禅堂にかわいいふんがひとつふたつみっつ。
私は山門に白く小さな背中を見つけた。
「待って!」
私はその背に駆け寄り、震えている彼にそっとオムツをつけた。
公開:19/11/15 10:05

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