預言者さま(3)

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私は話を終へると村の少女たちからせがまれ、いつものやうに文字を敎え始めた。
食卓の上で小さな石板に書きつけられた手蹟を見つめながら、30年前の出來事を手繰り寄せる。

あのとき、私は砂の地面に何かを書いてゐた。背後で男たちが娼婦を罵る。私は、その女を庇つた。
やがて、その過去の出來事と現在のこの時とが一瞬の內に繋がり、細く長い絲として未來へと伸びていく。私は數十年後を目擊する。

誰かが私の嘗ての旅の行跡をしたためてゐる。その中には事實も空想もあり、一方で、種を入れたパンのやうに、膨らませて大きくなつた話もある。
いつの日か多くの記者たちの手に依つて、最後にはひとつの書物に纏められていく。地の向こうの人々までもが、それを讀むやうになる。

私は眩暈を感じた。束の閒に此處へ呼び寄せられた未來。私の既にゐない時空が、いま目の前に廣がる。
少女たちの文字を書く音が、時の流浪を超えて遙か木靈する…
ファンタジー
公開:19/11/13 23:15
更新:19/12/11 09:21
キリスト外伝

白ねこのため息( あちらこちらにいます )

2019年9月14日から参加いたしました。
しみじみとした後味や不思議な余韻が残る作品を目指しています。
どうぞ宜しく…。
ちなみに、写真は一部を除き、全て自分で撮影したものです。併せてお楽しみ下さい。

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現在、資格取得(英検1級など)の勉強中のため、投稿ペースが落ちていますが、
これからも引き続きご愛顧のほど、何とぞ宜しくお願いいたします。ペコリ。
 

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