月見に一杯

散歩中、丁度目の高さにあった。
立木に巻いた蔓からぶら下がる、枝豆――の、偽物。
正体はクズの実だ。形は似てるが、煮ても焼いても食えたもんじゃない。根っこも蔓も、葛粉とか布の原料とか、色々使い道があるらしいが、実だけろくに使えない。豆の仲間のくせに矛盾した奴。
要するに腹が減ってた。そして暇だったんだ。一房摘んで帰って、有り合わせの小鉢に盛る。つまみを作るのも億劫だし、買う金も惜しい。アパートのベランダ、塩を舐めながら手酌酒。
ちぇ。お月さんも、今夜は雲と逢引きか。しけ込むの意味が、俺とじゃ大違いだな。
やれつまらん。俺はしがない独りもん、妻在らん、だ。なんて洒落に濁して、ちびりと煽る猪口に、しょぼくれた影一匹。
そうだなお前がいた。ひがんで笑って献杯して、置いた酒に反射する蛍光灯。雲隠れのお月さんが、ようようの出座でござい、と。
酔うまで飲むには白けが過ぎて、ほとんど素面で散歩に戻った。