スーツケースに最初から入っていたもの

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家を出ると決めたのは昨日のことだった。
不幸だった訳じゃない。
ただ違うと。
これは私の願った未来じゃないと、そう思ってしまった。

当座を凌ぐだけの現金。
着替えと貴重品、靴もバッグも最低限。
財布とスマホだけでどこへでも行ける世の中だもの。
心残りの品物はすべて写真に収めて持ち出せばいい。

寝室の時計リビングの鉢植え網かごのラック。
ペアのマグは私には重くて。
でもあんまり嬉しそうに使うから。

あぁどうしようもう出ないと帰ってきてしまう。
だけど荷物が。
半分も埋まってないスーツケースが重くて。

「ただいm・・おかえり。」

途方に暮れた私を見て。
この家から一歩も出てさえいない私におかえりと。

「次は一緒に行こうよ。」
「・・荷物を持ってくれるなら。」
「それが夫婦だよ?」

荷造りは君に向いてないみたいだねと覗かれたスーツケース。
もうなくなったと思ってたもので一杯の。
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公開:19/11/13 21:40

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