おつかれ

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泡立たない石けんが、実は煮こごりだと気がついたのは、使いはじめて5日目のことだった。
ほとほと疲れている。へとへとに。
昨日は着ていたセーターにほつれがあって、その糸の先端を玄関扉に挟んだまま職場のある永田町へ。議事堂に着いた頃にはほぼキャミソール一枚だった。
「糸、終わりそうですよ」
そう教えてくれたのは守衛さんだ。
私は年の離れたおじさんが好きで、以前からその守衛さんに片想いをしていた。
その日は総理にお願いしてそのまま帰った。守衛さんは私を心配して、糸を回収しながら家まで送ってくれた。
泣いている私に、守衛さんは糸で物語を編むと言う。縦の糸はアナゴ。横の糸はたわし。そんな悶絶するほどにつまらない物語を聞きながら、それでも私の胸は冬のおしっこみたいに震えていた。守衛さんが好き。
私は水風呂の中で煮こごりになりながら、どれが幻覚なのかを考えた。
そうだ。あれは昨日ではない。先月のことだ。
公開:19/11/13 20:39

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