相続人として生きること

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 面識のない伯父の遺産を相続した。親族が順に相続放棄をした結果だ。父母は僕が相続すると決めたことに衝撃を受けたようだった。
 僕は軽い引き籠りのニートで、二十歳を過ぎても親のスネを齧っている。遺産を相続すれば変われるかもしれない。そんな理由を父母に説明するのは恥ずかしかったので、僕は無言で書類にサインをした。
 伯父は多額の資産を残していたが、その使い道は遺言書で定められていた。
「全ての資産は被相続人の「記憶」を相続人の脳へ移植する施術とそのリハビリに掛かる費用にのみ使用すべし」
 親族たちは、この条件が呑めなかった。伯父の記憶を移植された後、これまで通りの生活ができる保証はなかったからだ。そしてそれは、僕には不要なものだった。
 手術は成功した。伯父は山師のような事をする旅の人だ。その思い出は濃密で詳細で、これ以上は無いというほど豊かなものだった。それから僕は、長い余生を過ごしている。
ファンタジー
公開:19/11/14 11:07

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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