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 渋谷区長である私は常に多忙だ。外回りの合間に役所へ戻り、山積みになった未決裁文書を片付ける日々。
 その日はいつもより疲労困憊だった。無理やり瞼を広げ、決裁欄に判子を押していくと、ふと表題に違和感を覚えた。
 どこが気に入らないのかと言えば「渋峪」という字で――ん? 「渉谷」だったか。いや、「澁谷」はもっとスッキリした字のはず――まずい、ゲシュタルト崩壊だ!
 椅子から立ち上がり窓に顔を向けると、既にシブヤの街は歪曲し、今まさに崩壊する直前だった。
 すぐさま明日開かれる会議の資料を引っ張り出すと、そこに書かれた他区の名前を凝視した。
 しばらく経ってから自分の名前が載っている頁を確認すると、ちゃんと「渋谷」区長と記載されていた。窓の外は、普段と変わらない渋谷だ。

 ――危なかった。あと少しで渋谷が消滅するところだった。
 さて、仕事を再開する前に「新縮」区長へ謝罪の電話をしないとな。
SF
公開:19/11/13 07:00
更新:19/11/13 12:26

竹箒390円

綺麗な文章を書きたいと思ってます。
どうぞ、よしなに。

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